LATENS LAB — 一次情報の検証
AIに書き込み権限を許すな、と言う前に監査ログを数えた — GitHubとSlackで、読み書きの比が約7倍違った
2026年11月2日 / 読む目安 10分
「AIに書き込み権限を渡すな」。情報システム部門が言うことです。読み取りだけなら事故は起きません。現場は逆を言います。読み取りだけでは、仕事は1行も進みません。
ただ、この記事が数えたのは、その是非ではありません。複数のコネクタを1枚の監査ログで横断して数えると、単一ツールのログでは出てこない数字が出ます。 書き込み1回あたりの読み取り回数が、GitHubとSlackで約7倍違いました。
当社は、開発の進行管理をまるごとAIに渡しています。GitHubとSlackを繋ぎ、プルリクエストを読んで「取り込んでよい」と判断するところまで任せました。マージも、AIがやっています。
数え直したのは、2026年4月から10月20日までの本番の監査ログです。結論は統制したうえで書き込みを許すで、ただし「全体で許すか」という決め方では、必ずどこかで外します。
PMが足りない、という形で効く不足
東証上場企業とそれに準じる企業957社の調査では、内製化を進めるうえでの課題として、開発人材の量が52.7%、質が49.6%、そしてPM人材の不足が44.4%でした。上に2つあるので、1位ではありません。それでも3番目です。

図:内製化を進めるうえでの課題。上位3つを並べています(JUAS 企業IT動向調査2026・n=953)。
同じ調査の総括は「QCDに改善の可能性がみられるも、全体の傾向は引き続き悪化・横ばい」です。
人を採るか育てるかの話になりますが、その人を待つあいだ、進行管理は止まったままです。
人が30〜60分 → 人が0分

図:GitHubとSlackをLatensOS経由でAIに繋いだ配線。読み取りの線と書き込みの線を分けて描いています。
いまは人が0分です。人はPRを開いていません。
ただし、監査ログで言えるのは「LatensOS経由の人の操作が記録されていない」までです。人が直接github.comを開いたかは映らないので、そこは当社代表の申告です。
AIに渡す前は、プルリクエストを1本読んで「マージしてよい」と判断するまでに一人で30〜60分かかっていました。こちらも当社代表の記憶で、記録から出したものではありません。
母集団は当社1社、実質1名です。 委譲を決めた人と実行する人が同じで、他社のPMに残る「決裁者が別人」という障害が出てきません。

図:PR1本を取り込むのに人が使った時間。前は幅のある帯、後は0分。前は記憶、後は監査ログなので、倍率は出していません。
「0分」はAIが速いという話ではありません。判断をあらかじめ委譲したので、人が通る工程そのものが無くなったという話です。だから、この事例は書き込み権限の設計と切り離せません。
では、AI側は何分かかっているのか。マージを含む操作のまとまりを6回すべて並べます。

図:取り込み6回でAIがGitHubとSlackを操作していた時間。これは人の時間ではありません。
6回のうち5回は1.5分以内、残る1回は機能の実装ごと含んでいるため42.4分です。0.0分の回は操作が1回だけです。
PRを読んで取り込みを判断する作業から、人の手が無くなりました。
ツールごとのログでは、片側しか見えない
ここからが、この記事で言いたかったことです。
AIが実際に何をしたかは、繋いだ先のツールを個別に見ても分かりません。GitHubの実行ログを見ればGitHubのことは分かりますが、同じAIが同じ期間にSlackを何回読んだかは、そこには映りません。
当社はコネクタをLatensOSの下に置いているので、主体・時刻・ツール名・対象が、コネクタをまたいで同じ形で1枚の台帳に残ります。 だから、読み取りと書き込みを同じ定義で分けて数えられます。
2026年4月から10月20日までで、こうなりました。

図:読み取りと書き込みのツール呼び出し回数。GitHub・Slack・2つの合計の3段。
照会(読み取り)が6,895回、実行(書き込み)が73回。読み取りと書き込みの判定は、呼び出されたツールの名前で行っています。
先に言っておくと、この比率は「回数が少ないから安全だ」という意味ではありません。 統制の重さは回数では決まりません。1回の誤ったマージで壊れます。
単一ツールのログでは、Slack側の照会5,272回は視界に入りません。比べる相手がいないからです。
同じAI、同じ台帳。それでも比は約7倍違う
実行1回あたりの照会回数に直すと、はっきり分かれました。GitHubのコネクタは照会32.5回に1回、Slackのコネクタは照会229回に1回でした。同じAIが同じ台帳の上で動いているのに、比は約7倍違います。
分母はSlackの実行23回です。1件動くと7倍前後に振れるので、小数では出しません。

図:実行1回あたりの照会回数。GitHubのコネクタとSlackのコネクタを並べています。
GitHubは、読んだら書く仕事です。Slackは、読んで把握する仕事が大半で、書くのは返信のときだけです。同じ「AIに書き込みを許すか」という問いでも、答えの重みがコネクタによって違います。
この比べ方が成立するのは、2つが同じ台帳に同じ形で残っているからです。片方がGitHubの実行ログ、片方がSlackの管理画面の書き出しだったら、定義が揃わないので比べられません。
比が約7倍違うから、「AIに書き込みを許すか」は全体では決められません。コネクタ単位で決めるしかない。
何を許し、何を許していないか
GitHubで走った書き込み50回の中身は、8種類しかありませんでした。

図:GitHubで実行された書き込み50回の内訳。操作の名前と回数で並べています。
50回・8種類です。Slack側の23回は、スレッドへの返信20回、チャンネルへの投稿2回、リアクション1回です。
許す対象を絞る設計が現実的なのは、比率が小さいからではなく、書き込みがこの8種類に集中しているからです。

図:許す/条件つきで許す/許さない の3段。操作の名前で線を引いています。
自動マージに付けている条件は1つだけです。CIが通っていること。 PRの作成者でも、触ったパスでも、リポジトリでもありません。
正直に言えば、CIを条件にするというのは、どのテストを書いたかに権限設計を委ねることです。 CIが薄ければ、この条件も薄い。自社のCIで足りるかは、読む側が見るしかありません。
ただし、mainへの直接の書き込みも許しています。期間中に9回あり、中身はコーポレートサイトの文面と画像、自分用のレポートの雛形でした。CIを条件にしているのはマージだけで、直接の書き込みはその条件を通りません。本番のアプリケーションのコードはPRを経由していますが、運用でそうしているだけで、権限で縛ってはいません。
許していないものは、本番データベースへの接続、本番環境へのデプロイ、CIの定義ファイルそのものの変更です。最後の1つは、許すと条件を自分で書き換えられるようになるためです。
許す・条件つきで許す・許さないを、操作の名前のレベルまで書き出せる。これが統制の実体です。
先に書かれているものと、この記事が足すもの
AIに判断を委ねて自動マージする話は、すでに日本語で公開されています。
記事 | 公開されている数字 | 何を示したか |
|---|---|---|
Nature(大塚氏) | 自動マージ247件・約3か月半 | AIに判断を委譲して自動マージできること。1件あたり$1.35(エージェント側のAPI費用) |
atama plus | マージPR 535件(2026年3月の単月) | レビューのリードタイム中央値が14.2時間(2025年11月)から4.3時間(2026年3月)へ |
この記事 | 照会6,895対実行73(2コネクタ) | 1枚の台帳で横断して数えると、比がコネクタで約7倍違うこと |
Natureは件数、atama plusは時間、この記事はコネクタ間の比です。担当している範囲が違います。
で、実際にいくらかかるのか
厚生労働省の職業情報提供サイト job tag は「プロジェクトマネージャ(IT)」の1時間当たり賃金を一般労働者4,026円としています(令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工して作成)。前の30〜60分をこれに当てると、PR1本の取り込みあたり2,013円から4,026円です。
こちらは人の時間に賃金を当てた試算で、次に出てくるのはAIの実行回数への課金です。中身が違うので割りません。

図:取り込み1回あたりの費用。上段が人、下段がAIで、AI側はエージェント側とコネクタ側を別の行に置いています。
AIに渡した場合、費用は2つの層に分かれます。ひとつはエージェント側、AIそのものを動かす利用料です。当社は実測を出せません。参考値として、Natureの事例では1件あたり$1.35でした。
もうひとつがコネクタ側、LatensOSの課金です。月額固定はなく、照会は無制限で無料。課金は実行の回数だけで、無料枠が月10回あります。無料枠は全社の実行回数に対してかかります。
超過1回あたりの単価は、月1,000回までが60円です。取り込み1回で走る実行は1〜2回だったので、取り込み1回あたり60円から120円になります。

図:実行回数で下がる単価の階段。区分の境目と単価を並べています。
単価表を月ごとに当てて平均すると、月1,628円でした。この金額だけは母集団が違います。 無料枠が全社の実行回数にかかるため、GitHubとSlackだけでは請求を切り出せません。全コネクタ・2026年3月から10月20日まで・課金対象217回での8か月平均です。月ごとの実行回数は0回から65回(2026年7月は0回)。請求書ではなく、実測した回数に単価表を当てた仮定計算です。
照会は無料で実行だけが課金される、という構造は、読み取りと書き込みを分けて数えられることが前提です。
LatensOSは、この権限の設計と監査を一箇所でやるための製品です。15分のデモで、実際の権限画面と監査ログをお見せします。
この記事の前提と、測っていないこと
- 置き換える前の30〜60分は、当社代表の記憶です。
- 置き換えた後の数字は、本番の監査ログです。期間は2026年4月から2026年10月20日までです。
- この記事の60円から120円は、コネクタ側だけの金額です。エージェント側の利用料は別にかかります。
測っていないもの。
- 取り込んだコードの品質。速くなったかどうかしか見ていません。
- 委譲の設計そのものにかけた時間。
- 進行管理以外のPM業務にかかっている時間。
- 読者の環境(別のCI、別のリポジトリ構成)で同じことが起きるか。
GitHubとSlackのコネクタ分だけで、全コネクタの合算ではありません。CIで実際に何が走っているかは、この記事では開示していません。job tag の4,026円は社会保険料や間接費を含まないため、企業の実際の負担より小さい数字です。
出典
- 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2026」報告発表資料(配布4,500社・回収957社/2025年度調査)https://juas.or.jp/cms/media/2026/04/JUAS_IT2026summary.pdf
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「プロジェクトマネージャ(IT)」https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/322
- 大塚(@maaash)「「純粋リファクタリング」かAIに判断させて自動マージする」Nature LT・SpeakerDeck(2026-07-02)https://speakerdeck.com/maaash/chun-cui-rihuakutaringu-ka-ai-nipan-duan-sasete-zi-dong-mazisuru
- yub0n「コードレビューのボトルネックを"する側"と"される側"の両面から解消する」atama plus techblog・Zenn(2026-05-12)https://zenn.dev/atamaplus/articles/resolve-review-bottleneck